計画実行力を高める心理術:インテンション・プランニングで行動を習慣化する
仕事における目標設定や計画立案は、多くの会社員にとって日常的な業務の一部です。しかし、立てた計画が思うように実行できなかったり、重要なタスクを後回しにしてしまったりする経験は少なくないのではないでしょうか。特に多忙な営業職においては、日々の突発的な業務や顧客対応に追われ、本来やるべき行動や自己啓発の時間が確保できないという課題に直面することもあります。
本稿では、このような計画倒れや先延ばしを防ぎ、行動の実行力を高めるための強力な心理テクニック「インテンション・プランニング(実行意図)」をご紹介します。この手法を導入することで、意志力に頼ることなく、計画を確実に実行し、望ましい行動を習慣化する道筋が見えてくるでしょう。
インテンション・プランニングとは:行動を自動化する心理学的手法
インテンション・プランニングは、「もしXが起こったら、Yをする」という明確な形式で行動計画を立てる心理テクニックです。ドイツの心理学者ピーター・M・ゴルウィッツァー教授らが提唱したもので、単なる「目標」ではなく、「いつ、どこで、どのように行動するか」という具体的な「実行意図」を事前に設定することで、行動の成功率を飛躍的に高めることが科学的に示されています。
この手法の根幹にあるのは、特定の状況(トリガー)とそれに対応する行動を脳内で結びつけることにより、その状況が発生した際に自動的に行動が促されるメカニニズムです。これにより、毎回「さて、次に何をしようか」と考える必要がなくなり、意志の力を消耗することなく、スムーズに計画された行動に移ることが可能になります。
科学的根拠:実行意図の力
ゴルウィッツァー教授らの研究では、インテンション・プランニングを用いたグループが、そうでないグループと比較して、目標達成率が著しく向上することが報告されています。例えば、健康行動の促進や学業成績の向上、さらには複雑な業務におけるタスク実行率の改善など、様々な分野でその効果が実証されています。これは、脳が特定のトリガーを認識すると、意図した行動を自動的に活性化させる「実行準備状態」に入るためと考えられています。
営業職がインテンション・プランニングを実践するステップ
インテンション・プランニングは、営業職の日々の業務や自己管理にすぐに取り入れることができます。具体的な実践ステップは以下の通りです。
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具体的な目標行動を特定する: まず、習慣化したい行動や、先延ばししがちなタスクを明確に特定します。例えば、「新規顧客へのアポイント電話を増やす」「商談後のフォローアップを徹底する」「週に2時間、自己啓発の学習時間を確保する」などです。
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トリガー(きっかけ)と行動を「もし〜なら、〜する」の形式で結びつける: 次に、特定した行動を実行するための具体的な状況(トリガー)を設定し、「もしXが起こったら、Yをする」という形で計画を立てます。トリガーは、時間、場所、特定の出来事など、明確で予測可能なものを選びます。
- 例1:新規アポイント電話の習慣化 「もし、午前中の商談が終了したら、すぐに次の顧客へのアポイント電話を3件かける。」
- 例2:商談後のフォローアップ徹底 「もし、顧客との商談が終わりオフィスに戻ったら、その場で商談の議事録と次のアクションプランを15分で作成する。」
- 例3:自己啓発時間の確保 「もし、毎週水曜日の終業時間が来たら、自席で20分間、業界トレンドに関するオンライン記事を読む。」
- 例4:資料作成の先延ばし防止 「もし、新しい提案資料の作成を始めるなら、まず最初に目次と主要なデータソースを30分で整理する。」
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計画を可視化し、意識的に繰り返す: 立てた「もし〜なら、〜する」の計画を、デスクの見える位置に貼る、スマートフォンのリリマインダーに設定するなどして、常に意識できる状態に保ちます。最初のうちは意識的な努力が必要ですが、トリガーと行動の結びつきが強まるにつれて、自然とその行動が実行されるようになります。
インテンション・プランニングがもたらす効果
このシンプルな心理テクニックは、以下のような多岐にわたる効果をもたらします。
- 行動の実行率向上: 漠然とした目標ではなく、具体的な行動への道筋が明確になるため、実際にその行動に移る確率が高まります。
- 先延ばしの防止: トリガーが設定されていることで、行動を開始するタイミングで迷うことがなくなり、先延ばしを防ぎます。
- 意志力への依存の低減: 脳が自動的に行動を促すようになるため、疲労やストレスがあっても計画を実行しやすくなります。
- 自己管理能力の向上: 自身の行動パターンを客観的に把握し、生産性の高い行動を計画的に組み込むことができるようになります。
- 精神的負担の軽減: 「何をすべきか」を常に考える負担が減り、本来の業務に集中できる時間が増加します。
実践のヒントと注意点
- シンプルに始める: 最初は一つか二つの行動から始め、慣れてきたら徐々に増やすようにしてください。
- 現実的なトリガーと行動設定: 実現可能なトリガーと行動を設定することが重要です。あまりにも非現実的な計画は、継続を困難にします。
- 状況に応じた見直し: 業務内容や環境の変化に応じて、インテンション・プランニングの内容を定期的に見直し、調整する柔軟性も必要です。
- 成功体験の積み重ね: 小さな成功体験を積み重ねることで、行動に対する自信がつき、さらなるモチベーション向上につながります。
まとめ
インテンション・プランニングは、心理学的な知見に基づいた、非常に効果的な行動変容のツールです。営業職として、日々の業務効率を向上させたい、自己啓発の時間を確保したい、あるいは先延ばし癖を克服したいと考えるのであれば、この「もし〜なら、〜する」というシンプルなフレーズを日々の習慣に取り入れてみてください。
具体的な計画とトリガーを設定することで、あなたの行動は自動化され、意志力に頼らずとも、目標達成に向けた確実な一歩を踏み出すことができるでしょう。ぜひ今日から実践し、自らのパフォーマンス向上を実感してください。